元ガリガリの筋トレ日記

【読書メモ】『服従の心理』スタンレー・ミルグラム著

 

感想

 有名なミルグラムの実験の本。人は権威への服従により、簡単に非道徳的行為を行えることを明らかにした。実験結果(各実験方法において、何%の人が、どれだけの電流を被害者(生徒役)に流したかが一目でわかる)を比較して見るだけでも面白い。

 

 多くの人が実験者(権威側)の指示した致死的な電流を流したことは知っていたため、反抗できた実験方法が気になった。最も権威に反抗できた実験は、何も知らない被験者と共に電流を流す教師役となった仲間が反逆する方法であった。被験者1人のみでは65%(40人中26人)もの人が最高水準のショックを送ったが、仲間が反逆した場合、最高水準のショックを送ったのは10%(40人中4人)にとどまった。仲間の反逆が実験者の権威を弱めたのである。ミルグラムは仲間の反逆の実験を受けて以下のように締めている。

 集団はこのように効果的に実験者の力をはね返すという事実から、われわれは、個人の行動には三つの主要な理由があることに気づく。個人は内在化されたある種の行動基準を持っていること、権威が自分に加えるかもしれない制裁に非常に敏感なこと、集団が自分に加えるかもしれない制裁に敏感なこと。権威に対抗しようとするとき、個人は集団の他の者たちから自分の立場を指示してもらおうと最善の努力をする。人々が相互の支持を与え合うことが、権威のゆき過ぎに対する最強の防波堤である(p165)

 ちなみに最も最高水準のショックを送った人が多かった実験は「仲間がショックを送る」方法である。被験者は実験の全般的進行のため必要な補助的行為を行うが・ショック送電機の操作は仲間が行う。この場合、92.5%(40人中37人)の被験者が被害者の悲痛な叫びを聞きながら、ショックを止めなかった。被害者への最終的行動との間に他人が介在していることで、被験者の緊張を和らげ、不服従を減少させるのである(p165)。

 

 社会が存続する上で規律は必ず必要であり、規律が存在すれば必ず権威は存在する。そのため、権威のない世界を作ることはできない。そして権威に従うことは、この実験で明らかとなった「正常な人間の行動」(p244)なのである。