元ガリガリの筋トレ日記

【映画分析】『名探偵ピカチュウ』とフィルムノワール(※ネタバレあり)

 

 

はじめに

 名探偵ピカチュウを見ていて考えたことを書きます。「ポケモン」というハッピーな題材にもかかわらず、どこか陰鬱な雰囲気の画面と、その町並みはまるでサイバーパンク物であったことが書こうと思ったきっかけです。

 

あらすじ

21歳のティムは、長い間会っていなかった父ハリーが事故で亡くなったという連絡を受け、人間とポケモンが共存する街・ライムシティを訪れた。探偵業を営んでいたハリーの部屋で、ティムは1匹のピカチュウと出会う。なぜかティムにはそのピカチュウの声が成人男性のものに聞こえ、話す内容も理解することができた。ピカチュウは自らが記憶喪失であることを明かし、自分はハリーのパートナーだったはずであること、自分が生きているのだからハリーも生きているに違いないことをティムに訴える。ティムとピカチュウは、新米記者ルーシーの協力のもと、ハリーが事故の前に追っていた謎の薬品を巡る事件について調べ始める。

名探偵ピカチュウ (映画) - Wikipedia

 

なぜフィルムノワール的な雰囲気?

 ポケモンといえば、アニメではサトシが青い空の下、元気に冒険を繰り広げるイメージ。しかしながら、本作の画面に映し出されたポケモンの世界はどこか暗い。 

その理由について、監督のロブ・レターマンはこう語っている。

ピカチュウが探偵なのでフィルム・ノワール的な世界観を描くことは、既に制作側が決めていたという。しかし、それを魅惑的な映像に仕上げたのはレターマン監督の手腕だ。

「そのコンセプトに沿いながら、自分の大好きなさまざまな映画をパレットに並べて、それで画を描いていくように映画を作っていきました。パレットに並べたのは、まず『第三の男』などモノクロの古典的なフィルム・ノワール映画。それからフィルム・ノワールを意識した70年代のネオ・ノワールも。
ブレードランナー』も僕にとってはフィルム・ノワールです。それに日本のアニメ『AKIRA』、僕はあのアニメを見て育ちました。あの映画に出てくる都市、"ネオ東京"の色調は重要です。あの超高層ビル群も。そして『2001年宇宙の旅』などのSF映画。70年代の探偵映画や警官映画のギラギラした映像。黒澤明監督の『天国と地獄』。そういう映画をすべて参考にしました」-『名探偵ピカチュウ』を生み出したロブ・レターマン監督来日インタビュー - SCREEN ONLINE(スクリーンオンライン)

確かに『名探偵ピカチュウ』に出てくる街「ライムシティ」は、『ブレードランナー』や『AKIRA』に出てくるような近未来的なのにどこかジメジメして雑多な雰囲気。

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名探偵ピカチュウ

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名探偵ピカチュウ

上記が名探偵ピカチュウの町並み。

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ブレードランナー 町並み

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AKIRA 町並み

上記『ブレードランナー』と『AKIRA』。ただ暗いだけでなく、ネオンが怪しげに光っているところも似ている。監督はこの理由を「ピカチュウが探偵だから」としていたが、他にも理由はあると考える。それはやはり『AKIRA』が関係していると考える。

 

『名探偵ピカチュウ』と『AKIRA

 名探偵ピカチュウでは、超能力を操るポケモンミュウツー」の力を手に入れようとするハワード・クリフォードという権力者兼研究者が登場したが、結局ピカチュウ達に阻まれ、逮捕されてしまう。それはまるで『AKIRA』で超能力者を手に入れ、コントロールしようとして失敗した軍や鉄男とイメージが重なる。

 ストーリーだけでなく、映像においても類似する点がある。ミュウツーを格納する球体や荒れ果てた超能力研究所は、AKIRAを格納していた球体や研究所と近似している。

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暴走した鉄男の下にある球体に"アキラ"を格納している

  さらに「ホログラム」や頭に取り付けてポケモンに意識を投下する装置など、『名探偵ピカチュウ』には"科学"の要素が多く詰め込まれており、それを使う側が悪役であるところも典型的なサイバーパンク物である。

 一見子供向けの映画だが、フィルムノワールサイバーパンクの要素、さらに過去の映画のメタファーがふんだんに詰め込まれた『名探偵ピカチュウ』は映画好きの玄人でも楽しめるだろう。